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第9回:大津波と海岸の自然再生

■海岸林の再生にむけて―マツでなくてもよいこと、マツでなければできないこと―

中村克典 森林総合研究所東北支所

東日本大震災津波で破壊された海岸松林の姿を前に,私たちは無力感を覚えざるを得ませんでした。海岸林では命を守れなかった,マツは役に立たなかった...でも,大切なことを忘れかかってないでしょうか?海辺に暮らす人々の生活を潮風や飛砂の害から守り続けるとともにふるさとの景観をつくり,また規模の小さい津波に対しては確かに防災機能を発揮してきた海岸林の役割は,今回の震災を経てもなお消え去ることはありません。

海岸林の再生にあたっては,より防災機能を高め,生物多様性にも配慮し,さらに松くい虫被害への対策も織り込むことが求められます。そのための方策として,広葉樹の活用を訴える声が大きくなっています。しかし,マツを広葉樹に変えれば問題は解決するのでしょうか?そもそも,広葉樹を海岸に植栽して上手く育つのでしょうか?海岸林植栽におけるマツと広葉樹の使い道について,情報を整理し検討したいと思います。


■砂浜海岸エコトーンにおける巨大津波攪乱・自律的修復・人為

平吹喜彦 東北学院大学 ・南蒲生 砂浜海岸モニタリングネットワーク

2011年5月中旬以降、私たちは「海岸エコトーンという視座」と「立地・生物の多様性」に着目しながら、仙台市宮城野区南蒲生地区で生態系モニタリングを継続してきました。この調査地は、(1)自然環境と土地利用履歴に関して、仙台湾岸を代表しうる属性を備えており、また(2)被災後の後背湿地で、高木性のマツ類優占林が櫛歯状に残存するという、興味深い様相を呈している場所です。 今回は、「前浜、後浜、砂丘頂前方域、砂丘頂後方域、人工水路(貞山堀)、後背湿地、沖積平野低湿地(水田)という7ゾーン」に細分した上で、(1)巨大津波による立地・植生の破壊と自律的修復の状況、(2)復興工事に伴う攪乱の実態、(3)「自律的修復を尊重した多様性・多機能海岸エコトーンの復興」の必要性と方策案、についてお話します。


■汽水の恵みと内湾・河口の自然再生

松政正俊 岩手医科大学

内湾,特に,三陸海岸では湾の最奥に位置することが多い河口部は,津波の被害を強く受けた場所です。こうした場所では河川水や雨水が海水と混じり合って,塩分が海水よりも低い「汽水」となり,海とも川とも違った独特の生態系が成立しています。アサリやシジミはもちろん,海の生物という印象が強い牡蠣-マガキも本来はこうした汽水域に生活する二枚貝です。魚類や甲殻類にも,イシガレイ,マハゼ,シロウオ,モクズガニ,イソスジエビなど,汽水域で一生ないしはその一部を過ごす種類が少なからずいます。津波により汽水域の生物は激減しましたが,ほとんどの種類では昨年から目立って数が増えてきました。しかし,未だ回復(生態学的には「遷移」)の過程にあり,汽水の「恵み」を享受するためには,これからの人の関わり合い方がとても大事です。

津波で新しく形成された汽水域の事例も織り交ぜながら,何がポイントになるか,考えてみたいと思います。


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